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「うちはまだExcelで管理していて」。この「まだ」という言葉に、少し引っかかります。Excelで回っているなら、それは遅れているのではなく、ちょうどいい規模だということです。問題は、Excelが限界を迎えたときに、それに気づく合図を知らないことのほうにあります。
この記事では、システム化を考えるべき3つのサインと、サインが出ていないならExcelのままでいい理由を書きます。私の事務所も、いくつかの管理はExcelのままです。
半分以上の会社が「Excelの段階」にいる
先に数字を見ておきます。2025年版の中小企業白書は、中小企業のデジタル化の取組を4段階に分けています。段階1が「紙や口頭による業務が中心」、段階2が「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している」、段階3が「デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる」、段階4が「ビジネスモデルの変革や競争力強化」です。
2024年の調査(帝国データバンク、n=24,588)では、段階1が12.5%、段階2が52.3%、段階3が32.0%、段階4が3.2%でした(中小企業庁調査室「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」P.11)。段階2、平たく言えば「Excelや表計算ソフトで業務を回している」あたりの状態が、過半数です。
ですから、Excel管理は恥ずかしいことでも遅れていることでもなく、日本の中小企業の標準的な姿です。ただし、段階2の中には「Excelでちょうどいい会社」と「Excelがもう限界なのに気づいていない会社」が混ざっています。その見分け方が、この記事の本題です。
「人が増えたら」は合図ではない
よく聞くのが「社員が20人を超えたらシステムを入れたほうがいい」という話です。私はこれを信用していません。社員30人でもExcelで問題なく回っている会社はありますし、8人でも限界を超えている会社はあります。人数は、限界とは関係がありません。
限界を決めるのは、人数ではなく「同じ情報が何か所にあるか」です。Excelが破綻するとき、その始まりはいつも同じです。誰かが、同じ数字を2つのファイルに打ち始めたときです。
サイン1 同じ数字を、2か所に打っている
これが最も重要で、最も見落とされるサインです。売上を「売上管理表」に打ち、同じ数字を「月次報告」にも打つ。顧客の住所を「顧客一覧」に打ち、「請求書」にも打つ。それぞれのファイルは正しく作られています。問題は、2か所に打った瞬間から、その2つが食い違う可能性が生まれることです。
典型的なのは、営業側が持っている数字と経理側が持っている数字が、月末に合わない、という事態です。どちらも元は同じ伝票なのに、片方は入力が1日遅れ、片方は訂正が反映されていない。合わない原因を探す「突合」という作業が毎月発生し、数字を作る時間より、数字を合わせる時間のほうが長くなる。これがExcelの限界の正体です。
今すぐ確認できます。経理や事務の方に「同じ数字を、2つ以上のファイルに打っていますか」と聞いてください。「はい」なら、そこがシステム化の候補です。「いいえ」なら、まだExcelで大丈夫です。
サイン2 そのファイルを触れる人が、1人しかいない
2つ目は、属人化です。「この在庫表は佐藤さんしか分からない」「関数が複雑で、触ると壊れるから誰も開かない」。こういうファイルが1つでもあれば、その人が休んだ日、辞めた日に業務が止まります。
これはExcelの問題ではなく、Excelが「作った人の頭の中」をそのまま形にできてしまうことの副作用です。システムは不自由なぶん、誰が触っても同じ動きをします。Excelは自由なぶん、作った人にしか動かせないものが簡単にできる。会社にとってどちらが安全かは、その人が来月もいるかどうかで決まります。
確認方法は簡単です。業務で使っている主なExcelファイルを5つ挙げて、それぞれ「作った人以外に、中身を説明できる人はいるか」を聞く。いないファイルがあれば、それがサイン2です。
サイン3 「最新版はどれ?」と月に1回以上聞かれる
3つ目は、バージョンの問題です。「見積管理_最新.xlsx」「見積管理_最新2.xlsx」「見積管理_最新_修正版.xlsx」。心当たりのある方は多いと思います。メールで送り合ったり、共有フォルダにコピーしたりしているうちに、どれが正しいのか誰にも分からなくなる。
これは、複数の人が同じ情報を「同時に」更新したい、という要求が出てきた印です。Excelは本来、1人が1つのファイルを扱う道具です。クラウド版で共同編集もできますが、そこまでするなら、最初から複数人で使う前提の仕組みのほうが素直です。
頻度の目安は「月に1回以上」です。年に数回なら、フォルダのルールを決めれば済みます。毎月起きているなら、ルールでは抑えられない段階に来ています。
サインが1つなら、Excelのままでいい
ここが、システム会社の営業とは違う話になります。3つのサインのうち1つしか出ていないなら、私はシステム化を勧めません。Excelの運用を少し直すだけで、たいてい解決するからです。
私の事務所の話をします。資金繰り表と案件の管理は、今も表計算で回しています。理由は、サインが1つも出ていないからです。数字を打つ場所は1か所、触るのは私だけで説明も要らず、最新版はファイルが1つしかないので迷いません。この状態でシステムを入れると、月額の費用と設定の手間が増えるだけで、得るものがありません。
サインが1つだけ出ている場合の直し方も書いておきます。サイン1だけなら、2か所のうち片方を「もう片方を参照するだけ」にする。サイン2だけなら、そのファイルの説明書をA4で1枚書いてもらう。サイン3だけなら、ファイル名に日付を入れて、共有フォルダの1か所以外には置かないと決める。どれも半日で終わります。
2つ以上なら、「そのExcelだけ」をシステムにする
サインが2つ以上出ているファイルがあるなら、そこがシステム化の対象です。ただし、会社全体ではなく「そのExcelだけ」です。
情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」は、日本企業の課題として「業務プロセスの全体最適化の取組割合が低く、DXの取組が個別最適、サイロ化している」と指摘しています(IPA「DX動向2025」)。これは大企業の話ですが、逆に言えば、大企業ですら全体最適はできていない。社員10人の会社が「全部まとめてシステム化」を目指すと、まず失敗します。
順番は、サインが一番多く出ているExcelを1つ選び、それだけを置き換える。半年運用して、次に困っているExcelを見る。この繰り返しです。最初の1つは、たいてい「顧客」か「売上」か「在庫」のどれかで、市販の月額数千円のサービスで足りることがほとんどです。
今日やること
- 業務で使っているExcelを5つ書き出す
- それぞれに「二重入力」「触れる人が1人」「最新版が不明」の3つを○×でつける
- ○が2つ以上のファイルがあれば、それだけをシステム化の候補にする。なければ、Excelのままでいい
「Excelの限界」は、外から言われるものではなく、この表を作れば自分で分かります。分からないうちにシステムを入れるより、分かってから入れるほうが、かける費用はずっと小さくて済みます。
5つのExcelに○×をつける作業を一緒にやりたいときは、スポット相談(1万円/60分)でその場で表を作り、システム化すべきか判定します。
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