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「うちの事業がダメだったんですかね」。補助金に落ちた社長から、こんな言葉を聞くことがあります。私の答えは決まっていて、「事業は関係ないと思います。書き方です」。慰めで言っているのではありません。審査する側が何を見ているかは公開されていて、落ちる申請書はだいたいそこを外しています。
この記事では、小規模事業者持続化補助金を例にして、落ちる申請書に共通する3つの書き方と、その直し方を書きます。他の補助金でも、審査の考え方は大きくは変わりません。そもそも何に使える補助金なのかは、以前「補助金の使い道」で書いたので、そちらを先に読んでもらっても構いません。
半分が落ちる。しかも理由は教えてもらえない
まず数字から。中小企業基盤整備機構の発表によると、持続化補助金(一般型・通常枠)の第19回は、申請16,576件に対して採択7,819件でした(中小機構 2026年7月29日 お知らせ)。採択率にすると47.2%。2件に1件は落ちています。
そして公募要領には、「採択審査は非公開で提出資料により行います。提案内容に関するヒアリングは実施しません」「採択審査結果の内容についての問い合わせには応じかねます」と明記されています(第20回公募要領 第8版 P.33)。つまり、口頭で補足するチャンスはなく、落ちても理由は分からない。紙だけで勝負が決まります。
私は独立する前、生命保険会社のIT企画部門で12年、システムの業務要件をまとめて社内に説明する仕事をしていました。その経験から言えるのは、審査や承認をする人は「自分が探している言葉」が最初のページにあるかどうかで読み方を決める、ということです。事業の良し悪しはその次です。補助金の申請書も、同じ構造をしています。
審査員が見ている「4つの項目」は、公募要領に全部書いてある
持続化補助金の公募要領には「審査の観点」という節があり、計画審査で見る項目が4つ、そのまま載っています。要約すると次のとおりです。
- ①自社の経営状況分析の妥当性――自社の強みと弱みを適切に把握しているか
- ②経営方針・目標と今後のプランの適切性――強み・弱みを踏まえ、市場や顧客のニーズを捉え、売上高・売上総利益の増加を目指しているか
- ③補助事業計画の有効性――効果が客観的事実に基づいて目標設定され、実現可能性が高く、新たな価値を生む取組か
- ④積算の透明・適切性――真に必要な金額が正確に計上されているか
原文を読むと気づくことがあります。「売上高・売上総利益の増加」という言葉が、②と③だけで5回出てきます。「客観的事実に基づいて」も3回。審査員はこの言葉を探しながら読んでいる、と考えて間違いありません。
もう一つ。この4項目の手前に「基礎審査」があり、必要書類が一つでも欠けていれば「失格」と書かれています。内容を読む前に、ここで終わる申請がある、ということです。
共通点1 「何をやるか」は書いてあるが、「なぜ今か」がない
落ちる申請書の典型は、補助事業の説明が「新しいホームページを作ります」「チラシを1万部配ります」で始まって、そこで終わっているものです。やることは分かる。でも、なぜ今それが必要なのかが書いていない。
審査の観点①と②は、自社の現状分析と方針を見る項目です。「常連客の高齢化で来店が3年で2割減った。近隣に若い世帯が増えているのに、店を知ってもらう手段がない。だからホームページを作る」。この順番で書いてあれば、①②③が一本の線でつながります。ホームページを作ること自体は誰でも書けます。差がつくのは、その前段です。
これは補助金に限った話ではありません。銀行への説明でも、社内の投資判断でも同じです。「システムを入れ替えたい」から始まる説明と、「現行システムの保守が来年3月で切れる。切れると月次の締めが手作業になる」から始まる説明では、読む側の受け取り方がまるで違う。書いてある投資内容が同じでも、です。
共通点2 売上の数字に「根拠」がついていない
「売上高・売上総利益の増加」を書かなければならないことは、多くの社長が知っています。問題は、その数字の出し方です。「売上を20%伸ばします」とだけ書いてある申請書は、数字があるようでいて、審査員には何も伝わりません。
審査の観点③には「客観的事実に基づいて目標の設定がされており」とあります。求められているのは、20%という結論ではなく、そこに至る足し算です。「現在の月間来店客数は約400人。チラシ1万部で反応率を0.5%と見込むと(たとえばの数字です)、月に50人の新規来店を見込む。客単価3,000円なら月15万円、年180万円の売上増。現在の年商900万円の20%にあたる」。ここまで書いて、はじめて「客観的事実に基づいた目標」になります。
数字の精度は、正直それほど問われません。反応率が0.5%なのか0.3%なのかを審査員は検証できませんし、しません。見ているのは、社長が自分の商売の数字を把握したうえで計算したか、それとも空欄を埋めるために書いたかです。前者は文章から伝わります。
私が計画書を見せてもらうとき、最初に確認するのはここです。売上増の数字の横に、その計算式があるか。なければ、まずそこから一緒に作ります。計算式さえあれば、あとは文章に直すだけなので、実は一番時間がかからない部分でもあります。
共通点3 「自社の強み」と「やること」がつながっていない
3つ目は、少し分かりにくい落とし方です。経営計画の欄に「強み:創業40年の信頼、手作りの味」と書いてあり、補助事業の欄に「SNS広告を出します」と書いてある。それぞれは間違っていません。でも、40年の信頼と手作りの味が、SNS広告のどこで生きるのかが書いていない。
審査の観点③には「技術やノウハウ、アイディアに基づき、ターゲットとする顧客や市場にとって、新たな価値を生み出す」とあります。基礎審査の④にも「小規模事業者が主体的に活動し、その技術やノウハウ等を基にした取組であること」とあります。強みが補助事業の中で使われていないと、「お金があれば誰でもできること」に見えてしまう。それは審査員が一番警戒する申請です。
直し方は難しくありません。強みを書いたら、補助事業の説明の中でその言葉をもう一度使う。「創業40年で蓄積した常連客の声を、SNS広告の文面に使う」「手作りの製造工程を動画にして広告に載せる」。強みの欄と補助事業の欄を、同じ言葉で往復させるだけです。
「最初の1ページ」で決まる
第19回は16,576件の申請がありました。審査員が何人いるかは公開されていませんが、1人が何十件、何百件と読むことは確かです。1件にかけられる時間は数分でしょう。最初の1ページで、目的・数字・なぜこの会社がやるのか、が読めなければ、その先は読まれないと考えたほうがいい。乱暴に聞こえますが、読む側の事情を考えれば、これは合理的な前提です。
申請書を書き終えたら、次の3つを自分で確認してみてください。
- 「なぜ今やるのか」が、補助事業の説明より前に書いてあるか
- 売上増の数字の横に、計算式があるか
- 強みの欄に書いた言葉が、補助事業の欄にもう一度出てくるか
3つとも揃っていれば、事業の内容がありふれたものでも十分に戦えます。逆に、事業がどれだけ良くても、この3つがなければ審査員には届きません。届かないだけで、事業が否定されたわけではない。落ちた社長に「書き方です」と言うのは、そういう意味です。
書き方より先に確認してほしい、12月4日
最後に、内容とは別のところで落ちる話を一つ。持続化補助金は、申請の前に地域の商工会議所(または商工会)から「事業支援計画書(様式4)」を発行してもらう必要があります。第20回の申請締切は2026年12月15日ですが、この様式4の発行依頼の締切は12月4日です。公募要領には「受付締切以降の発行依頼は、いかなる理由があってもできません」と書いてあります。
締切の11日前に、もう一つの締切がある。ここを知らずに12月に入ってから書き始めると、書類は間に合っても発行が間に合わない、ということが起きます。申請書を書く前に、まず商工会議所に電話して、様式4の段取りを聞いてください。書き方の話はそのあとで十分です。
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