読了目安 8分
「うちはITに詳しい人間がいないから、全部業者さんにお願いしている」。社長からこう聞くことがあります。私の答えは「それでいいと思います」です。本当にそう思っているからです。私自身、生命保険会社のIT企画部門に12年いて、システムの大半は外の業者に作ってもらう側でした。社内で全部を抱え込むと、作った人が異動した瞬間に誰も面倒を見られなくなる。それが分かっているから、外に出すのです。
ただ、丸投げして失敗する会社と、丸投げしてうまくいく会社は、たしかにあります。その差は業者の腕ではありません。「何を業者に渡し、何を渡さなかったか」です。この記事では、渡してはいけないものを3つに絞って書きます。
丸投げは悪くない。数字もそう言っている
先に、丸投げを責める話ではないことをはっきりさせておきます。情報処理推進機構(IPA)が2025年6月に出した「DX動向2025」によると、システムの内製化に取り組んでいる企業は米国で8割を超えるのに対し、日本では4割です(IPA「DX動向2025」)。しかもこれは大企業を含めた数字で、社員数十人の会社で内製できるところは、まずありません。日本の中小企業では「DXに取り組むメリットが分からない」と答えた割合が5割を超えていて、これも同じ調査に出ています。
つまり、社員20人の会社が業者に頼るのは、遅れているのではなく普通です。問題は「頼る」と「決めるのをやめる」を一緒にしてしまうことにあります。
同じIPAの調査で、私が一番気になった数字があります。経営・IT・業務の三者の協調が「十分にできている」と答えた日本企業は、1割に届きません。業者側の問題ではなく、発注する側の中で話がつながっていない。丸投げの失敗は、だいたいここから始まります。
共通点1 「何のために入れるのか」を業者に決めさせている
一番多いのがこれです。「在庫管理をなんとかしたい」と業者に伝えて、あとは提案を待つ。業者は真面目なので、在庫管理システムの機能一覧を持ってきます。入出庫、棚卸、発注点管理、ロット管理。社長は「まあ全部あったほうがいいか」と頷く。ここで目的が「在庫を減らす」なのか「棚卸の日を半分にする」なのか「発注ミスをなくす」なのかが決まっていないと、業者は全部入りを作るしかありません。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が毎年出している「企業IT動向調査」の2025年版を見ると、工期が予定どおりにならなかった原因(QCD悪化に影響を与えているトレンド)として「要件定義の難易度向上」を挙げた企業が51.0%、「要件定義の時間不足」が35.6%でした。予算が超過した原因でも「要件定義の難易度向上」が49.4%です(JUAS「企業IT動向調査2025」)。要件定義というのは、平たく言えば「何を作るかを決める作業」です。作る技術ではなく、決める段階でつまずいている会社が半分いる。これは大企業の話ですが、社員20人の会社なら、決める人は社長しかいません。
発注側で要件をまとめる仕事を長くやってきた立場から言うと、最初に「これができれば成功、これは今回やらない」と書いた紙があるかどうかで、その後の進み方はまったく変わります。A4で1枚、ときには数行で足ります。それがないと、途中で「あれもできますか」が増えて、納期と金額が膨らむ。業者を責めたくなりますが、増やしているのは発注した側です。
目的は業者に決めてもらえません。社長が「発注ミスをゼロにしたい。在庫の圧縮は今回やらない」と一行書くだけで、業者の提案はまるで違う大きさになります。機能一覧の半分は消えるはずです。
共通点2 「やめる条件」を決めずに始めている
これは私自身の失敗を書きます。独立してからの話です。ある案件で、月の作業時間に上限を決めないまま契約を結びました。相手を信頼していたし、細かい条件を出すのが野暮に思えたからです。結果、ある月の稼働が想定の1.5倍を超え、超えた分はそのまま無償になりました。時間にして170時間ほど。契約書に「これを超えたら別途協議」と一行あれば済んだ話でした。
これは受注側の失敗ですが、発注側でも構造は同じです。「いつ・どうなったらこのプロジェクトを止めるか」を決めずに始めた案件は、止められません。3か月の予定が半年になっても、「ここまで来たんだから」で続いてしまう。業者側からは言い出せません。言い出せるのは発注した社長だけです。
やめる条件は難しく考えなくていいです。「初期費用が見積もりの1.3倍を超えたら一度止めて話し合う」「3か月たって現場が使い始めていなければ、いったん解約する」。この2つを業者に最初に伝えておく。それだけで、業者側も見積もりの出し方が変わります。嫌がる業者もいますが、その反応自体が判断材料になります。
共通点3 「データとアカウントの持ち主」が業者になっている
3つ目は、気づいたときには手遅れになりやすいものです。ホームページのドメイン、クラウドサービスの管理者アカウント、顧客データが入ったデータベース。これらの名義が、いつのまにか業者になっている。そういう会社は珍しくありません。
悪意のある業者は少数です。ほとんどは「手続きが面倒だから代わりにやっておきますね」という親切から始まります。ただ、その業者と別れるときに、ドメインの移管に業者の承認が要る、管理者パスワードを業者しか知らない、データの出し方が分からない、という状態になります。以前このコラムで書いた「IT業者の見積もりで見る3つのこと」の3番目、解約時にデータが返るかという話は、実はこの持ち主の問題です。
私の事務所でも、この夏にホームページを作り直したとき、ひとつやらかしました。作業を外に出して、上がってきたページをそのまま公開したら、本文の中に「ここに文章が入ります」という仮の文字が2か所残っていた。2回やりました。目的も、やめる条件も、自分で決めていた案件です。それでも「最後に自分の目で確認する」を渡してしまうと、こうなる。作業は渡していい。確認と名義は渡してはいけない。身をもって覚えたことです。
今すぐできることは一つです。ドメイン、サーバー、クラウドの管理者、会計や顧客管理のサービス。契約している一覧を作って、名義と管理者IDが誰のものかを横に書く。業者名義のものがあれば、次の打ち合わせで「名義を当社に移したい」と伝える。まともな業者なら、応じない理由がありません。
業者に渡す前に、社長が紙に書く3行
ここまでを、業者に会う前の準備に落とすと3行になります。
- 目的:これができれば成功。これは今回やらない。
- やめる条件:金額がいくらを超えたら、いつまでに使われていなかったら、止める。
- 持ち主:ドメイン・アカウント・データの名義は当社。確認は最後に自分がする。
この3行を書いて業者に見せると、業者の提案が変わります。何がどう変わるかは、実際に見せてみると分かります。少なくとも、機能一覧の分厚い提案書は減ります。
「決めるのが社長の仕事」と言うと重く聞こえますが、決める中身は上の3行だけです。技術は業者に任せて構いません。この3行を持っている会社は、技術に詳しくなくても業者と対等に話せます。持っていない会社は、詳しくても振り回されます。
もし3行が書けないとしたら、それは業者に会う前にもう少し整理が要るというサインです。そこを一緒に整理するのが、私の仕事です。
