資金繰り表は月1回・A4 1枚でいい——10人の会社の作り方

読了目安 8分

「資金繰り表を作ってください」と言われて、会計ソフトを開く。これが、たいてい間違いの始まりです。会計ソフトに入っているのは過去の数字で、資金繰り表に書くのはこれからの数字だからです。ソフトからは出てきません。

社員10人の会社の資金繰り表は、通帳と請求書と返済予定表があれば、A4 1枚に月1回で作れます。行は8行で足ります。この記事では、その作り方と、私の事務所で使っている1枚の構造を書きます。

公庫の様式を見ると、実は「4列」しかない

資金繰り表と聞くと、銀行が求める難しい書類を想像する方が多いのですが、日本政策金融公庫が公開している様式を見ると、列は4つしかありません。「実績」が1か月分と、「予定」が3か月分です(日本政策金融公庫「資金繰り表 記入例」)。

行のほうも、前月からの繰越、収入(現金売上・売掛金の回収)、支出(仕入・外注費・人件費・諸経費)、その差引、借入と返済、翌月への繰越、という並びです。記入手順には、期首の残高は決算書や試算表(個人なら預金通帳)から、返済は返済予定表から記入する、とあります。つまり公庫自身が、手元にある書類から作るものだと言っている。社員10人の会社が自分用に作るなら、期首は通帳の残高で始めて構いません。銀行に出すときに試算表と合わせればいい。

そして、この様式の冒頭にはこう書いてあります。「この書類に代わる資料を作成されていれば、そちらをご提出いただいてもかまいません」。自分の会社に合った1枚を作っておけば、それで足りる、ということです。

通帳と請求書だけで作る「8行」

公庫の様式を、社員10人の会社向けに圧縮すると、次の8行になります。列は「今月・来月・再来月・その次」の4列です。

  • ①月初の残高(通帳の残高。複数口座なら合計)
  • ②決まっている入金(発行済みの請求書。入金日が確定しているもの)
  • ③見込みの入金(受注はしたが請求前のもの。確度が低いものは書かない)
  • ④固定の支払い(家賃・給与・社会保険・借入返済。毎月ほぼ同じ額)
  • ⑤変動の支払い(仕入・外注・税金など、月によって変わるもの)
  • ⑥月末の残高(①+②+③-④-⑤)
  • ⑦最低ライン(これを下回ったら動く、と決めた金額)
  • ⑧⑥が⑦を下回る月と、そのとき何をするか

⑧の書き方は、1行で足ります。「11月に⑦を割る見込み。10月中に、支払サイトの長い取引先に前倒しの相談をする」。この1行があるかないかで、表の意味が変わります。

②と③がずれる典型は、支払サイトです。納品した月と入金される月は、たいてい1〜2か月ずれます。売上は立っているのに現金がない、という月はここから生まれます。表を4列にしておくと、そのずれが目で見えます。

①〜⑥までは公庫の様式と同じ考え方です。違いは⑦と⑧を足していることで、この2行が、この表を「作って終わり」にしないための行です。

②と③を分けるのも大事です。「入る予定」を一つにまとめると、確定分と希望的観測が混ざって、表が実態より良く見えます。③は少なめに書く。それでも⑥がプラスなら安心できますし、③を入れないと赤になるなら、それは「③次第の会社」だと分かります。

3か月先まで、月1回でいい理由

先の見通しは長いほどよさそうに見えますが、社員10人の会社で6か月先の入金を当てられる人は、まずいません。当たらない数字を書くと、表全体が信用できなくなります。3か月先までなら、②はほぼ確定していて、③も受注ベースで見える。公庫の様式が「予定3か月」なのは、そういうことだと思います。

頻度も同じで、週1回にすると続きません。月初に通帳を見て、請求書の束を見て、15分で更新する。月1回なら、忙しい月でも回ります。続かない資金繰り表は、ない資金繰り表と同じです。

私の事務所の1枚には、残高の下に「あと何か月」と「そのとき何をするか」がある

私の事務所で使っている表の構造を、金額を伏せて書きます。上半分は、上の8行とほぼ同じです。毎月の固定費、決まっている入金、事業用の現金残高、借入の月々の返済額。ここまでは普通の資金繰り表です。

違うのは下半分で、そこに2つのことを書いています。一つは「今の入金が止まった場合、事業用の現金だけであと何か月もつか」。もう一つは「残高がこの線を割ったら、この順番でこれをやる」という発動条件です。たとえば、経費の見直し、金融機関への相談、新規案件の優先順位の変更。どの線でどれを動かすかを、平常時に決めて紙に書いてあります。

なぜこれを同じ紙に書くかというと、いざ資金が苦しくなったときには、考える余裕がないからです。案件が切れて収入が減る局面は、同時に次の仕事を探す局面でもあります。そのときに「どうしよう」から考え始めると遅い。平常時に「こうなったらこうする」を決めておいて、苦しいときは紙を見て実行するだけにする。それがこの下半分の役目です。

もう一つ、私の表には「社長個人の資金は入れない」という決まりがあります。個人の預金を足せば残高は増えて見えますが、それをやると、事業として本当にあと何か月もつのかが見えなくなる。個人の生活資金は最後の安全弁として別に置き、表には事業用の現金だけを書く。⑦の最低ラインも、事業用の現金で決めています。

赤になる月が見えたら、それで目的は達成

資金繰り表の目的は、きれいな表を作ることではなく、「3か月以内に赤になる月があるか」を知ることです。見えたら、そこで目的は達成しています。あとは動くだけです。

赤になる月が見えたときに一番やってはいけないのは、その月が来るまで黙っていることです。前回の記事「銀行に『計画書を出して』と言われたら最初にやること」で書いたとおり、銀行は「求めに応じて数字を出す会社か」を見ています。2か月先に赤が見えた時点でこの1枚を持って行けば、それ自体が信頼の材料になります。赤の月が来てから駆け込むのとは、扱いがまるで違います。

逆に、3か月見て赤がなければ、その月はそれ以上考えなくていい。月初の15分で「今月は大丈夫」と分かる。これも、この表の大きな効用です。

最初の1枚は、今日作れる

通帳の残高、発行済みの請求書、返済予定表。この3つを手元に置いて、8行×4列を紙かExcelに書きます。金額は千円単位の概算で構いません。⑦の最低ラインは、目安として固定費の1か月分。そして⑧に、割ったら最初にやることを1つだけ書く。ここまでで、たぶん30分です。

これで、来月から月初15分の仕事が一つ増えます。代わりに、「今月は大丈夫だろうか」と月の途中で何度も考える時間がなくなります。差し引きで、社長の時間は減ります。

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