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銀行の担当者から「一度、事業計画書を出していただけますか」と言われる。社員10人の会社の社長にとって、これはかなり嫌な一言です。何か疑われているのか、融資を絞られるのか、と考えてしまう。そして多くの社長が、その晩からいきなり書き始めます。
書き始める前に、やることが一つあります。それをやるかやらないかで、書く分量も、急ぎ方も、出したあとの展開もまったく変わります。計画書の中身そのものは、以前「銀行に出す計画書は、税理士の決算書と何が違うのか」で書いたので、今回は「言われた直後の動き方」だけに絞ります。
最初にやることは、書くことではなく「聞くこと」
最初にやるのは、支店の担当者に「なぜ今、計画書が必要なのですか」と聞くことです。それだけです。
「そんなことを聞いたら心証が悪くなる」と思う方が多いのですが、逆です。銀行は今、社長に理由を説明することを求められる立場になっています。金融庁は2023年4月から、金融機関が経営者に保証を求める場合、「どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか」「どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか」を個別具体的に説明するよう求めています(金融庁「経営者保証改革プログラム」事業者向けパンフレット)。
つまり「なぜ」を説明するのは、銀行の側の仕事になった。社長が「なぜ今ですか」と聞くのは、失礼でも警戒でもなく、銀行が答える準備をしている質問をしているだけのことです。担当者には、答える理由があります。
理由は、ほぼ3通り
「なぜ今か」の答えは、ほぼ次の3つのどれかに収まります。どれに当たるかで、計画書の中身と急ぎ方が変わります。
一つ目、経営者保証を外す検討をしている。これは良い知らせです。銀行が「社長個人の保証なしで貸せるか」を検討していて、その材料として計画書が要る。この場合、急ぐ必要はありません。急ぐより、内容を整えるほうが大事です。何を見られるかは、次の節で書きます。
二つ目、借入の見直しや条件変更が視野にある。返済が重い、追加の融資を相談している、あるいは銀行側が今後の貸し方を決めたい。この場合は、資金繰りの見通しが計画書の中心になります。3か月先までに赤字の月があるかどうかを、まず社長自身が把握することが先です。
三つ目、銀行側の定期的な確認。担当者が代わった、支店の方針で取引先の状況を年に1回まとめている、といった事情です。この場合、分厚いものは要りません。A4で数枚、現状と今後1年の見通しがあれば足ります。むしろ「毎年これを出す」と決めて、型を作ってしまうのが得です。
聞かずに書き始めると、三つ目なのに一つ目の分量で書いて疲れ果てるか、二つ目なのに三つ目の軽さで出して信用を落とすか、どちらかになります。聞けば、どちらも避けられます。
銀行が本当に見ているのは、ガイドラインの「3つの要件」
理由が一つ目、つまり経営者保証の話であれば、銀行が見ている項目は公開されています。全国銀行協会などがまとめた「経営者保証に関するガイドライン」に、経営者保証なしで資金調達を希望する場合に求められる経営状況として、次の3つが書いてあります(全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」4〜5ページ)。
- ①法人と経営者との関係の明確な区分・分離——会社と社長個人のお金のやりとり(役員報酬、貸付など)が「社会通念上適切な範囲」に収まっているか
- ②財務基盤の強化——返済能力があるか
- ③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保——事業計画や業績見通し、その進捗について、銀行の求めに「正確かつ丁寧に」開示・説明しているか
「計画書を出してください」という依頼は、この③そのものです。原文には「事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明する」とあります。銀行は、計画書の出来栄えを採点しているというより、「この会社は求めに応じて数字を出す会社か」を見ています。
だから、完璧な計画書を半年かけて作るより、粗くても期限までに出し、そのあと「計画と実績の差」を定期的に報告するほうが、③の要件としては強い。ガイドラインにも「事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合には、自発的に報告する」ことが望ましいと書いてあります。一度出して終わりではなく、出し続ける会社が評価される仕組みです。
もう一つ、①を見落とさないでください。計画書の数字が良くても、社長個人と会社のお金の境目が曖昧だと、そこで止まります。役員貸付金が決算書に残っている、社長の個人的な支払いを会社の口座から出している。こういう状態なら、計画書より先にそちらを整理したほうが早い場合があります。
作る費用は、3分の2が出る
自分で書くのが難しい場合、費用の話をしておきます。国が認定した「認定経営革新等支援機関」(診断士、税理士など)に計画づくりを頼む場合、その費用の3分の2を各都道府県の中小企業活性化協議会が負担する制度があります。「早期経営改善計画策定支援」、通称バリューアップ支援事業と呼ばれるもので、上限は80万円です(中小企業基盤整備機構「認定経営革新等支援機関による支援」)。
この制度は、作った計画を「金融機関へ早期に提出することを端緒として」経営を見直すもの、と説明されています。つまり、銀行に出すことが前提の制度です。「計画書を出して」と言われた状況は、まさにこの制度の入口にあたります。経営者保証の解除に取り組む場合は、認定支援機関である弁護士に頼む金融機関との交渉費用にも3分の2(上限10万円)が出ます。
ただし、制度を使うかどうかは「なぜ今か」の答えを聞いてからで十分です。三つ目の定期確認なら、自分で数枚書けば済みます。制度を使うほどの話ではありません。
「なぜ今か」を聞いた翌日にやること
- 答えが「経営者保証」なら:決算書を開いて、役員貸付金・役員借入金・社長個人の支出が会社に混ざっていないかを先に見る。混ざっていれば、計画書より先にその整理を担当者に伝える
- 答えが「借入の見直し」なら:通帳と請求書だけで、3か月先までの入出金をA4 1枚に書く。赤字の月があるかどうかを、銀行より先に自分が知る
- 答えが「定期確認」なら:担当者に「毎年この時期に、この様式で出します」と伝えて、様式を今年作る。来年からは更新するだけになる
3か月先までの入出金の表は、次回の記事で「月1回・A4 1枚の資金繰り表」として、作り方を書きます。私の事務所で使っているものと同じ形です。
「計画書を出して」と言われて焦る必要はありません。銀行は理由を説明する立場にあり、見る項目は公開されていて、作る費用には補助がある。最初の一言、「なぜ今ですか」を聞くだけで、この3つが全部使えるようになります。
担当者に聞いた「なぜ今か」の答えを持って来ていただければ、スポット相談(1万円/60分)で、書くべき分量と順番をその場で決めます。認定経営革新等支援機関として、バリューアップ支援事業の申請もお手伝いします。
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