読了目安 8分(2026年9月 全面改訂)
「田中さんが休むと請求書が出せない」「山田さんしかあのExcelを触れない」。社員10人の会社なら、必ず2〜3人はこういう人がいます。悪いことではありません。ただ、社長がその場所を知らないのが問題です。1時間で見つける方法があります。そして、一番大きい属人化は社員ではなく、社長自身にある、という話も最後に書きます。
紙1枚とペンだけで始める
システムも表計算も要りません。A4を1枚、横に置いてください。左に社員の名前を縦に書き、右に「その人がいないと止まること」を書いていきます。本人には聞かず、社長が思い出せる範囲でいいです。本人に聞くと「大丈夫です」で終わるか、自分の仕事を全部書いてくるかになりがちで、どちらも使いにくい。
見つけ方は「先月、誰かが休んだ日」を思い出す
抽象的に考えると出てきません。「先月、○○さんが休んだ日に何が止まったか」「連休明けに誰宛ての電話が溜まっていたか」「年末に誰が最後まで残っていたか」。この3つの質問で、たいてい5〜10個は出ます。
記憶が頼りないなら、記録を見てください。厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、始業・終業時刻を「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録」で確認することを原則としています(厚生労働省 同ガイドライン P.2)。つまり、誰がいつ休んだかは、出勤簿かタイムカードに残っています。先月分を開いて、休みの日を拾い、その日に何が滞ったかを思い出す。記憶だけより、ずっと正確に出ます。
Excelのファイルについては、別の記事「Excel管理の限界はいつ来るか」で書いた「そのファイルを触れる人が1人しかいない」という見方がそのまま使えます。業務で使っている主なExcelを5つ挙げて、作った人以外に中身を説明できる人がいるか。いないファイルが、この紙の右側に載ります。
出てきたものを3つに分ける
- 今日明日で止まる:入金確認、請求書、給与計算、主要顧客への返信
- 1週間で困る:仕入発注、シフト作成、税理士とのやりとり
- 1か月は持つ:それ以外
手をつけるのは1番目だけです。3つも4つも同時にやると、社長の時間が消えて終わります。
引き継ぎ書は作らない。「隣の人が1回やる」だけ
引き継ぎ書を作らせると、忙しい本人が書かず、書いても読まれません。代わりに、その業務を隣の人が本人の横で1回やる。それを月に1回。これだけで「あの人しかできない」は「2人できる」に変わります。
手順書が欲しければ、隣の人が1回やったあとに、その人に書いてもらう。本人が書くより、初めてやった人が書くほうが、抜けている前提が書かれます。「採ったのに定着しない——引き継ぎ書より先に直すこと」で書いた新人の初日と同じ考え方です。
ITや自動化はそのあとです。2人でできるようになった業務は、手順が言葉になっているので、自動化の相談もしやすくなります。逆に、1人しかできない業務をいきなりシステムにしようとすると、その1人の頭の中をそのままシステムに写すことになり、システムができたあとも、その人しか触れないものになります。
一番大きい属人化は、社長自身
ここまで社員の話をしてきましたが、紙の左側に、社長自身の名前を書いてみてください。「社長がいないと止まること」。たぶん、社員の誰よりも多く出ます。今月の資金の状況、取引先ごとの事情、案件の次の一手。これらは社長の頭の中にしかなく、社長が休んだ日に社員が動けなくなる原因です。
2025年版の中小企業白書は、売上高10億円未満の企業について「経営者に集中しがちな職務権限の委譲が必要で、経営者一人の経営体制の限界の克服が課題」と書いています。ところが、規模拡大に重要な戦略として「経営者の兼務解消・権限委譲」を挙げた10億円未満の企業は9.3%しかありません(中小企業庁調査室「2025年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」P.30)。社長の属人化は、社員の属人化より見つけにくく、しかも社長自身が問題だと思っていない。
誤解しやすいのは、属人化の解消を「人を増やすこと」だと思ってしまう点です。同じ白書のページで、売上10億円未満の企業が規模拡大に重要だと答えた戦略の1位は「その他専門的な人材の確保・育成」33.6%でした。人を採る話は、社長の頭の中では常に上位にある。でも、社長にしか分からないことを紙に出さないまま人を採っても、その人はまた社長に聞きに来ます。先に出す、それから採る。この順番が逆になると、採った人が定着しません。
私の事務所で実際にやっている対策を2つ書きます。一つは、週の初めに、今の資金の状況、動いている案件とそれぞれの次の一手、今週決めることをA4 1枚に書き出すこと。頭の中にあるものを紙に出すと、それだけで「社長にしか分からない」状態が一つ減ります。詳しくは「社長がいないと回らない会社をやめる、最初の1手」に書きました。
もう一つは、資金が苦しくなったときの「発動条件」を、平常時に紙に書いておくことです。残高がこの線を割ったら、この順番でこれをやる。経費の見直し、金融機関への相談、案件の優先順位の変更。私の事務所の資金繰り表には、残高の下にこれが書いてあります。いざというときに社長が「どうしよう」から考え始めるのは、社長の頭の中にしか判断基準がないからで、これも属人化です。紙に書いてあれば、社長が疲れていても、紙のとおりに動けます。「資金繰り表は月1回・A4 1枚でいい」に、その表の構造を書いています。
1時間でやること
- A4に「名前」と「いないと止まること」を書く。社長自身の名前も入れる(30分)
- 「今日明日で止まる」ものに印をつける(10分)
- その業務を隣の人が1回やる日を決める。社長の分は、週1回15分で紙に出す日を決める(20分)
この紙は、作った日から古くなります。3か月に1回、同じ紙を見直してください。前回「隣の人が1回やった」業務が右側から消えていれば、それが進捗です。消えていなければ、やる日を決めただけで、やっていない。紙を見れば分かります。
この紙を一緒に埋めるところから始められます。無料相談の30分で、たいてい半分は埋まります。社長自身の欄は、私が質問しながら埋めます。
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