社員に生成AIを使わせたい。何から始めるか

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「社員に生成AIを使わせたいが、何から始めればいいか分からない」。全員にアカウントを配って研修をやる、という始め方を考える社長が多いのですが、私はそれを勧めていません。この記事では、私の事務所で実際にやった始め方を、数字つきで書きます。

止まる理由の1位は「効果が分からない」。2位は「間違いが怖い」

先に、日本の会社がどこで止まっているかを見ておきます。情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2025」によると、日本企業の生成AI導入の課題は、「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」が48.6%で最多、次いで「誤った回答を信じて業務に利用してしまう」が40.5%、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」が37.8%でした。「生成AIを活用できそうな業務がない」も25.9%あります(IPA「DX動向2025」)。

面白いのは、「経営層の承認が得られない」が3.8%しかないことです。社長は止めていない。効果が見えない、間違いが怖い、ルールが作れない、使える業務が思いつかない。この4つで止まっている。全員研修から始めると、この4つのどれも解決しません。研修を受けても、効果は見えないし、間違いは怖いままだし、使える業務は自分で探せと言われるだけです。

「1部署・1業務」から始める理由

私が勧めている始め方は、業務を1つ決めて、その業務だけにAIを入れる、というものです。理由は、上の4つの課題が、業務を1つに絞ると全部小さくなるからです。

効果は、1つの業務なら「前は何分かかっていて、今は何分か」で測れます。間違いは、1つの業務なら「AIが出したものを、誰が、どこで確認するか」を決められます。ルールは、その業務のためだけに1枚作ればいい。使える業務が思いつかないという問題は、そもそも1つ選べばいいので消えます。

全社導入は、この4つを一度に、全業務について解こうとする始め方です。だから止まる。

私の事務所で最初に選んだ業務:案件の候補を探す作業

私はこの事務所のほかに、企業のプロジェクト管理を請け負う仕事もしています。最初にAIに任せたのは、その「案件情報のサイトから、自分に合いそうな案件の候補を選び出す」という作業です。以前は、毎日30分ほど、自分でサイトを見て回っていました。

これをAIに変えたときの形は、こうです。AIが新着の案件を全部読み、私が決めた基準で採点して、上位の数件を「候補」として出す。私は、その候補を見て「承認」か「却下」かを選ぶだけ。却下のときは理由を一言(業務が合わない、時期が合わない、単価、など)つける。それで終わりです。1日あたり10分から20分ほどになりました。

ここで大事なのは、私がやっているのが「AIの答えを信じる」ことではなく「AIの答えに○×をつける」ことだという点です。前に挙げた「誤った回答を信じて業務に利用してしまう」は、○×をつける人を置くことで防いでいます。AIに任せたのは探す作業で、決める作業は任せていません。

AIに渡す前に、私が紙に書いた基準も載せておきます。100点満点で、必須条件に合うか50点、あればよい条件15点、業界の経験10点、業務の種類10点、勤務の条件10点、希望との近さ5点。80点以上を「候補」として出す、と決めました。この配点そのものは私の事情に合わせたもので、正しい配点というものはありません。大事なのは、配点を紙に書いてからAIに渡したことです。書いていないと、AIが何を根拠に選んだのかが分からず、直しようがなくなります。

○×をつける画面も、凝ったものではありません。候補ごとに、点数、選んだ理由、気になる点が1行ずつ並び、その下に「承認」と「却下」のボタンがある。却下を押すと理由を選ぶ。それだけの画面です。押した記録は日付つきで残るので、あとから「いつ、何を、なぜ却下したか」を見返せます。この記録が、基準を直すときの材料になります。

最初の結果は「承認 0件/4件」だった

正直に書くと、初日にAIが出した候補4件は、全部却下しました。承認率0%です。理由を見ると、「業務内容が合わない」が2件、「時期が合わない」が1件でした。AIは「必須条件に合っているか」で高い点をつけていたのですが、私が実際に見ているのは「その仕事の中身が自分のやり方に合うか」でした。採点の基準が、私の頭の中とずれていたわけです。

そこで、却下の理由をもとに採点の基準を直しました。業務の種類を基準に加え、時期の条件を厳しくした。翌日の候補4件は、2件を承認しました。承認率は0%から50%に上がった。まだ半分ですが、方向は合っています。

この「却下の理由を集めて、基準を直す」という作業が、AIを業務に入れるときの本体です。最初から正解を出すAIはありません。○×と理由を溜めて、直す。それを何回か繰り返して、はじめて任せられる状態になります。全員研修では、この繰り返しが起きません。

最初の業務の選び方

私が案件探しを選んだ理由は、次の3つの条件に合っていたからです。社長の会社でも、同じ条件で選べます。

  • 毎日か毎週、同じ形で繰り返している作業である(1回きりの作業は、基準を直す機会がない)
  • 「探す・並べる・下書きする」作業で、「決める」作業ではない(決めるのは人に残す)
  • 間違いがあっても、人が見れば気づける(気づけない業務は、最初には向かない)

社員10人の会社なら、問い合わせメールの返信の下書き、見積の下書き、日報の要約、求人票の候補づくり、あたりがこの条件に合います。どれも「下書きをAIが作り、人が直して出す」形にできます。

1か月後に見る数字は、1つだけ

始めたら、1か月後に見る数字を1つだけ決めておきます。私の場合は「承認率」でした。AIが出したものを、人がどれだけそのまま使えたか。これが上がっていれば、基準の直し方が合っている。上がっていなければ、業務の選び方か基準の作り方を変える。

時間の削減も測れますが、最初の1か月は承認率のほうが向いています。時間は、基準が固まったあとで自然に減ります。先に時間を追うと、確認を省いて事故が起きる。前に挙げた「誤った回答を信じる」は、時間を急いだときに起きやすい。

入力してはいけない情報の決め方は、以前「ChatGPTを会社で使う前に決めておく3つのこと」で書きました。業務を1つ選んだら、その業務で扱う情報について、あの記事の3つを決めてから始めてください。

全員研修は、業務が1つ回り始めたあとで十分です。そのとき研修で見せるのは、スライドではなく「この業務で、こう使って、承認率がこう上がった」という自社の実例になります。それが一番伝わります。

「最初の1業務」を一緒に選び、○×をつける型まで作りたいときは、スポット相談(1万円/60分)でその場で決めます。私の事務所の承認率の記録も、匿名化してお見せします。

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